どうもShimaです。
「順位戦C級ウォッチング」第七回ということで▲勝又清和六段△永瀬拓矢六段の対局を紹介します。
勝又六段は将棋世界紙上での最新戦法講義が有名ですが、
一方で自身の将棋は力戦形が多く穴熊もやらないなど、現代将棋から一歩離れたものであることも知られています。
対する永瀬六段はデビュー前から振り飛車党として知られていましたが、
最近はステップアップのために居飛車、特に横歩取りを採用することが目立ちます。
この将棋は勝又六段が3手目▲2五歩を採用しました。
振り飛車党に対してしばしば見かける手ではありましたが、
名人戦で森内名人が採用して以来居飛車党に対しても用いられることが増えました。
永瀬六段の武器は横歩取りと振り飛車、まさにうってつけの作戦と言えます。
少し序盤の駆け引きがあり第1図。
竜王戦で現れた一手損角換わり対早繰り銀のようにも見えますが、本譜は後手が手損していません。
△4一玉と一目変わった位置に玉を動かした永瀬六段ですが、狙いがありました。
ここで指したのが△4二金左!
手損をしてまでも△3二玉・△4二金型に組むことを優先させる、何とも凄まじい一手ですね。
しかしどうしてここまでしないといけないのでしょうか?
きっかけは一昨年の竜王戦までさかのぼります。
二年に渡る竜王戦七番勝負で一手損角換わりに対する早繰り銀は非常に優秀だと周知されました。
▲6八金型に組むことによって▲5六歩~▲5五歩と出来るようになったことが非常に大きく、
また▲6一角と打ち込んで次に▲7一銀などを狙う筋などもあり
「△3二金・△4二玉型では玉が5筋に近く受け切れない」ことが判明したのです。
そこに目をつけたのが新手メーカーとして有名な阿部健治郎五段。
「それだけ優秀なら一手の違いぐらい大したことないのではないか」
と言わんがばかりに、いきなり手損のない通常の角換わりでこの早繰り銀を採用したのです。
この将棋はは結果が幸いしなかったこともあり追随する棋士が現れませんでしたが、
序盤理論に定評のある青野九段が再びこれに目をつけます。
佐藤天彦七段相手に大優勢を築き上げ、あと一歩のところまで追い詰めたことでにわかに注目を浴びるようになりました。
新人王戦三番勝負という大舞台で藤森四段が採用したのも記憶に新しいところ。
そして先日指されたA級順位戦▲屋敷△羽生では
一度7八に上がった金を6八に動かし直すという、禁断の先手番手損作戦が出現してしまいました。
(×6九→6八 ○7八→6八)
今や▲6八金型・△4二金型はそこまでしてでも得たい好形と見られているのです。
脱線が過ぎましたのでそろそろ話を元に戻しましょう。
結果的に一手損角換わりの定跡型に合流し、後手が攻めきれるか先手が受けきれるかという難解なねじりあいの将棋となりました。
6一にいた飛車をどーん。
このような大駒の捌き方はいかにも振り飛車っぽい感じがしますね。
本局のハイライト。
次の一手は永瀬六段にしか指せない妙手でした。
まさか飛車を打って受けるとは・・・
並の居飛車党は△6五角と桂を補充し、△7五桂と攻め合う順を掘り下げるところでしょう。
振り飛車党の血が流れる永瀬六段ならではの感性が光ります。
結局この後数手で永瀬六段の勝ちが決まりました。
今期は開幕からいきなり2連敗と早々に昇級レースから脱落したかと思われた永瀬六段ですが、
その後はしっかり白星をキープしたことで7番手まで順位を上げています。
上位陣の直接対決が残されており、昨期順位の良かった分僅かながらチャンスが残されている状況です。
C2の昇級者争いが熱を帯びてきました。