第1章 キング翼攻撃

 本書の目的はマジックのような効果で読者を煙に巻くことではなく、どのようにしてそのような効果が生まれるのかをお見せすることである。

 例えばよくあるキング翼攻撃を例に取る。それが魅力的なのは目覚しい捨て駒や意表の手を伴った手筋を主としているからである。さらにまたそれが人々に受けるのは短手数での詰みを目指し驚くような手を生じさせるからである。

 しかしいつどのようにしてキング翼攻撃を開始するのだろうか?ひらめきを待たなければいけないのであろうか?

 その答えは簡単で意外に思われるかもしれない。そこでその背景を見てみよう。

 この図はキャッスリングをした後の局面である。キングは前面の3個のポーンとf3のナイトで守られている。これらの守備駒がそのままの位置にいる間はキングはほとんど攻撃にびくともしない。この態勢が変化したとたん陣形は緩み弱体化する。攻撃にもろくなるのはその時である。

 釘付けを避けるために自らhポーンをh3と突いた時あるいは敵駒を追い払うためにgポーンをg3と突いた時に陣形は変化する。しかしそうならない場合はマスターは(ここに秘密がある)色々な狙いによってhポーン又はgポーンを突かせるように誘ったり強制したりする。一旦どちらかのポーンが前進すると防御態勢に弱点が生まれる。そしてそれはつけこまれる元となる。その時こそマスターがキング翼攻撃に着手し見事な、そう、あのまるでマジックのような効果を収めるのである。