第17局

 ピルズベリー対メーソン戦は白がc列を制圧し黒が …c5 で捌くのに失敗する古典的な例である。ピルズベリーは黒のcポーンが動けないように固定してから黒がそのポーンの守りに動員できる駒より多くの駒でそれを攻撃した。当然ながらそのポーンは落ち、白が急所のc列を制圧したまま収局に移行し勝利への過程も易しかった。

クイーン翼ギャンビット拒否
白 ピルズベリー
黒 メーソン
ヘースティングズ、1895年

1.d4

 白は最強と考えられる初手の一つで指し始めた。

 dポーンが中原の重要な地点を占め大切な2地点のe5とc5に利いている。これらの地点を支配しているので相手の駒はそれらの地点に来ることができない。

 クイーンとクイーン翼ビショップは1段目から離れることができるようになった。

 キングはキングポーン布局で起こるような奇襲攻撃とは無縁である。そのようなことは黒がキング翼ビショップをc5に進出させf2のポーンを取って犠牲にし白キングを野外に出させて黒の他の駒で襲撃する時に起こる。

1…d5

 黒は中原での圧力を互角にし、白が次に 2.e4 と指すのを防ぎ、自分の二つの駒を動けるようにした。

2.c4

 この手は狙いであり提供である。狙いとは大局観的なもので 3.cxd5 である。3…Qxd5 の後 4.Nc3 でクイーンを追い払い白が中原を独占する。

 ポーンの提供の目的は黒のdポーンを中原の好所からどかすことである。この提供はキング翼ギャンビットの場合とは異なり危険を伴わない。白は容易にポーンを取り返し有利な陣形のままである。実際のところは白の側面ポーンと黒の中原ポーンの交換である。こんなに早く 2.c4 と突く主眼点はキングの安全を損なわずにただちに中原の争奪を行なうことである。

 別の目的もある。それは戦略的なものである。ポーンの交換はいつかは起こりc列が開通する。この列の所有権はクイーン翼ギャンビットでは最重要である。白は一般にクイーンをc2にクイーン翼ルークをc1に配置してこの列を完全に支配しようとする。

 この列とこの列上のc5の地点の支配は全局を支配するのと同じことである。c5の地点はそれほど特異な重要性を持っているので、黒を麻痺させるほど締め付けるためには駒をそこへしっかりと置くだけでほとんど十分である。

2…e6

 黒は別のポーンで中原のポーンを支えて守った。黒は 2…dxc4 とは取りたくなかった。というのは持ちこたえられないポーン得のために中原を放棄することになるからである。白はこの手に対して 3.Nf3 と指し(3…e5 を防ぐため)それから 4.e3 と突いて 5.Bxc4 とポーンを取り返して素晴らしい陣形を得る。

 dポーンを 2…Nf6 と守るのは劣った手である。白は 3.cxd5 と応じ黒は駒で取り返さなければならない。3…Qxd5 なら 4.Nc3 でクイーンが中原から追い払われ黒の手損になる。一方 3…Nxd5 なら 4.e4 で白が中原を占有しナイトを立ち退かせる。

 本譜の手の後黒は 3.cxd5 に 3…exd5 と応じる用意で、中原にポーンを維持することによりそこに足場を持ち続ける。

3.Nc3

 この展開の手は無駄なく小駒を最も適切な地点に置くので推奨に値する。このナイトはe4の地点に圧力をかけ、cポーンがd5の地点にかけている圧力を増している。

3…Nf6

 このナイトは単に最下段を離れることにより初期の手続きで自分の任務を果たしている。もちろんこの展開は中原に向かっていて、白ナイトが中原の重要な二つの地点に及ぼしている影響を相殺している。

4.Bg5

 この手は駒の素早い展開と狙いとを兼ね備えた非常に効率の良い手である。狙いとは 5.cxd5 exd5 6.Bxf6 gxf6(6…Qxf6 は 7.Nxd5 で白のポーン得になる)で、黒のキング翼ポーンの形が乱れる。

 ここまでの布局はこの試合より前に色々な選手によって散発的に試されてきた。しかしピルズベリーはその勝つ可能性の大きな高さを評価した最初の選手だった。彼はビショップがナイトにかかる(ほとんどのマスターはビショップを穏やかにf4に出していた)この手を盤の反対側における一種のルイ・ロペスと思い描いていた。彼はこの具体的な手順を完成させ普及させた。そして数々の素晴らしい勝利を重ね、特に初登場した1895年ヘースティングズ大会での勝利は有名である。

 本局では彼がクイーン翼ギャンビットの偉大な威力を発揮させて対戦相手をつぶすところを見ることになる。相手はこの戦法の細かな要点になじみがなく、とても完璧とはいえない防御をおこなった。マーシャルの常套句を用いればビルズベリーはメーソンを「赤子の手をひねるように」負かした。

4…Be7

 他に何もなければビショップはどこに動いてもキング翼キャッスリングの邪魔物が取り除かれるので黒の進展を助長する。このビショップはe7にいれば防御に好都合だし、必要とあればもっと攻撃的な地点に速やかに移動することができる。ついでにナイトを釘付けからはずし白の狙いを無効にした。

5.Nf3

 クイーンポーン布局ではキング翼ナイトの役目はe5の拠点を支配すること、時には占拠することである。実際ナイトをこの地点に埋め込みdポーンとfポーンでしっかりと支えることは後にピルズベリー攻撃として知られるようになったキング翼での非常に効果的な強襲の主題である。

5…b6

 一見してこの手はクイーン翼ビショップがeポーンによって反対側から閉じ込められているのでそのビショップを展開する簡単で自然な手段に見える。長い年月と黒駒の数多(あまた)の喪失の末に、このビショップをフィアンケットしてもその展開の問題は容易に解決できないことが明らかになった。

 数多くの試行錯誤を経て一つの手段に想到した。それは早い段階で …dxc4 と取り、適切な準備の後で白のdポーンを …c5 又は …e5 で攻撃することだった。最初の手(…c5)は中原の支配を争い、黒駒が利用できるようにc列を開け、そして狭小な陣形を全体的に解放する意図である。…e5 による攻撃は白のdポーンからe5の支配を奪い、黒のクイーン翼ビショップの斜筋も通す意味である。要するに黒はビショップの展開を考える前にまず中原をめぐって争うのである。

 黒が遅かれ早かれ …c5 と突くのはほとんど死活的に重要と言ってよい。この手は白のdポーンに挑みかかり、中原に争点を作り出し、自分のクイーンとクイーン翼ルークのためにc列を開け、クイーン翼の凝り形を解放する。この手を指さずにいると白はc列とc5の地点を支配することができる。白がc5の地点に駒を据えることができれば、その駒は黒陣全体に絶大な圧力を及ぼし抵抗を非常に効果的に削減し勝ちを成し遂げる技法をことのほか簡単にしてしまう。

6.e3

 白は中原を強化しキング翼ビショップの筋を通した。

6…Bb7

 黒はクイーン翼ビショップのフィアンケット展開を完了した。

7.Rc1

 ルークが重要なc列に急行した。この列は今のところは部分的にしか開通していないが、ポーンが交換されれば素通しになりルークの威力がずっと延びる。

7…dxc4

 黒は通常は白がキング翼ビショップを動かすまで待ってからこのポーンを取る。そうすればビショップがポーンを取り返すのに1手損をする。明らかに黒は自分のクイーン翼ビショップに中原を通る対角斜筋の利きを与えたかったのだろう。

8.Bxc4

 白はポーンを取り返して別の駒が戦場に出た。

8…Nbd7!

 ナイトのこの配置はクイーンポーン布局の特徴である。このナイトはc6に跳んでcポーンの行く手を遮ってはならない。このポーンは自由に進み中原に挑むようにしなければならない。

 d7のナイトは理想形である。…c5 または …e5 と突いて中原を攻撃するのを助け、中原の地点の所有をめぐる戦いに加わり、キング翼ナイトと協力し合う。

9.O-O

 キングが舞台から身を隠しルークが任務につけるようになった。

9…O-O

 キャッスリングの利点はキングが盤の中央にいるよりも隅にいる方が安全であるということである。そこなら前面の3個のポーンと勇猛なナイトでかくまわれる。一方ルークは最も簡便な方法で中央の列に回ってくる。

10.Qe2

 この布局での白クイーンの最も効果的な二つの地点はe2とc2である。c2ではクイーンはc列を利用して活動するルークを補完し、別の方面では戦略上の要衝のe4を黒のキング翼ナイトの侵略から守る。e2ではキング翼ポーンの形を黒が 10…Bxf3 で乱すのを防ぎ、中原を独占するためのeポーンの前進を助け、d1の地点を空けてキング翼ルークをそこに来させる。

 クイーンのe2への展開には別の利点もある。それはクイーン翼攻撃である。白は 11.Ba6 によってビショップ交換を強制し、白枡に利いていたビショップがいなくなって弱体化した黒の白枡に圧力をかけることができる。

10…Nd5

 黒のこの手の意図は1個または2個駒を交換して狭小な陣形をくつろげることである。

11.Bxe7

 白は喜んで駒交換による単純化に応じた。それはc列で痛烈な圧力をかけるという自分のテーマに戻れるからである。

 代わりに 11.Bf4 とかわすのは黒に多くの良い選択肢を与えすぎる。黒は 11…Nxf4 と取り(自分だけ双ビショップになる) 12.exf4 の後 12…Nf6 から 13…Nd5 として敵ポーンがどかすことのできない地点に恒久的に駒を維持することができる。または 11…c5 ですぐに中原を攻撃するかもしれない。さらにはd7のナイトをf6に持って来ても立派に指せるだろう。

 本譜の白の手は黒の選択の幅を狭める利点がある。

11…Qxe7

 この手はクイーンを戦いに参加させルークを連結させるので 11…Nxe7 と取る手より望ましい。

 もちろん黒は 11…Nxc3 とは取れない。それは 12.Bxd8 Nxe2+ 13.Bxe2 Rfxd8 14.Rxc7(素通し列にいるルークの勝利)となって黒がポーン損になり試合に負ける。

12.Nxd5

 今度はこの交換は白に都合が良い。白はここから局面を引っ張っていくことができる。

12…exd5

 黒はこのように取らなければならない。12…Bxd5 と取るのは 13.Bxd5 exd5 14.Rxc7 でポーン損になる。

 ポーンで取らせた結果白は黒に長い対角斜筋を閉鎖させた。これで黒ビショップは利きがひどく狭められた。

13.Bb5!

 さあ、早く。c列が突然開通しルークがcポーンに当たってこの列から行動が始まった。

13…Qd6

 ポーンを守り …c6 で白ビショップを追い立てる用意をした。

 ポーンをc5に突くのはもう手遅れになっている。なぜなら 13…c5 の後(2駒で当たりにされているのに対し3駒で守っているので大丈夫そうに見える)14.Bxd7 Qxd7(白は1手で守り駒のうち2個を取り除いた)15.dxc5 bxc5 16.Rxc5 で白のポーン得になる。

14.Rc2

 白はキング翼ルークで圧力を増すためにc1の地点を空けた。

 素通しの列でルークを重ねるとその列で威力が倍以上になる。

14…c6

 黒はうるさいビショップを追い払おうとした。

15.Bd3

 この手は黒の反撃が厄介な 15.Ba4 よりずっと強力である。15.Ba4 に対して黒は 15…b5 16.Bb3 a5(17…a4 でビショップを取る狙い)17.a3 Nb6 としてこのナイトをc4の地点にしっかりと据える。

15…Nf6

 黒は切迫した危険も知らずに嬉々として自分のことにかまけている。それはこの場合ナイトを攻撃に向かわせるためにたぶんe4の地点を占めさせることである。通例はこれはほめられるやり方である。しかし戦略はすべて目下の局面という状況によって調整しなければならない。全ての手はある手を常に「良い」か「悪い」と断定する独断的な判定でなく、相手の狙いに応じて指さなければならない。全ての手は現在指されている特定の局面における価値によって判断しなければならない。

 白はc列とcポーンにできる限りの圧力を積み重ねるという意図を明らかにしている。黒は持ちうる限りの戦力をc列の防御に動員することによって、または白の兵力を襲撃からそらすことのできる厳しい反撃を行なうことによって、白の狙いを迎え撃たなければならない。

 黒は目前の困難を解決するために何かしなければならない。そして相手が素通し列を完全支配する前に黒はすぐにそれをしなければならない。

 本譜の手で黒は絶好の機会を逃がした。それは 15…c5 と突いて中原に争点を作り出し自分の駒にもっと動く余地を与える最後のチャンスだった。

16.Rfc1

 黒のcポーンを固定して動けないようにした。16…c5 なら 17.dxc5 bxc5 18.Rxc5 で白のポーン得になる。

16…Rac8

 cポーンの守りに急いで駆けつけ(黒が自分の危機を悟ったので)ポーン突きの可能性を復活させた。

17.Ba6!

 この戦略は大変素晴らしい。小駒は大駒によって攻撃されているポーンのすぐれた守り手なので、白は黒のビショップを取り除きたいのである。ビショップがcポーンを守っている限り白のルークは決してそのポーンを本気で狙うことができない。

17…Bxa6

 黒は他に何かできただろうか。17…Rc7 なら 18.Bxb7 Rxb7 19.Rxc6 である。また 17…Qc7 なら 18.b4 でさらにcポーンを締め付ける。白はその後 19.Ne5 で圧力を強めビショップを交換して単純化しそのポーンを取ってしまう。

18.Qxa6

 クイーンが間近に迫った。脅威はaポーンだけでなくcポーンに対してもあり狙いは 19.Qb7 Rc7 20.Rxc6 Rxb7 21.Rxd6 で白が勝つことである。

18…Rc7

 この手は良さそうに見える。aポーンを助け白クイーンがb7に入れないようにしルークを重ねて哀れなポーンにさらに守り手を加える準備をしている。

19.Ne5

 白の戦略は単純である。白はcポーンにさらに圧力をかけるだけである。これでcポーンは3個の駒で当たりにされ2個の駒で守られている。

19…c5

 予定の 19…Rfc8 は白が次のようにあっさりと勝つ。20.Nxc6 Rxc6 21.Qxc8+ Rxc8 22.Rxc8+ Qf8 23.Rxf8+ Kxf8 24.Rc7 a5 25.Rb7 で後は児戯に等しい。

20.Rxc5

 ここからは白が固定されていないものは何でも単純に取り除いていく。

20…Rxc5

 黒はポーン損の時に駒交換を望んではいない。しかし何ができるだろうか。もし 20…Rfc8 でc列を争えば以前の解説のように 21.Qxc8+ で白が勝つ。一方 20…Re7(ルークの唯一の逃げ場)なら 21.Rc6 Qd8(21…Qb4 は 22.Nd3 Qd2 23.R6c2 Qa5 24.Qxa5 bxa5 でクイーンを強制交換されて黒の陣形がめちゃくちゃになる)22.a3 の後 23.Rc8 Qd6 24.R1c6 でクイーンを取る白の狙いが受けづらい。

21.Rxc5

 釘付けのポーンが無力で取れないのをあざ笑うようにルークが駒を取り返し重要なc列の支配を続けている。

21…Nd7

 二つの駒を当たりにしているのでこの手は魅力的に見える。白が 22.Nxd7 と応じれば 22…Qxd7 となってクイーン+ルーク収局になるが勝つのは容易でない。白はいつかはキング翼の多数派ポーンを突いていかなければならないが、そうするとキングが露出して永久チェックによる引き分けになる可能性がある。

 ルークが引き下がれば 22…Nxe5 23.dxe5 Qxe5 でこれも引き分けになる可能性がある。

22.Rc6

 ナイト交換をあっさりとかわしてクイーン当たりの先手をとった。

22…Nb8

 黒はこの「手筋」を指させられた。なぜなら 22…Qe7 と引くと 23.Rc7(ナイトを釘付けにした)がひどく 23…Rd8 24.Qb5(三重攻撃)で白が駒得する。

23.Rxd6

 単純化を目指せ。それが戦力的に優勢な場合の収局で覚えておくべき魔法の言葉である。

 ポーン得の時は駒交換によって自陣が弱体化しないならばそれによって戦力(及び相手のチャンス)を減少させよ。

23…Nxa6

 もちろん当然である。

24.Nc6

 これがマスターの手である。読者や筆者なら2ポーン得にするためにdポーンを取るかもしれない。それでも勝てるだろうがどうして紛れさせる必要があろうか。どうして黒に 24…Rc8 でc列を占拠し反撃を開始させる必要があろうか。

 注意すべきは本譜の手でピルズベリーはまだdポーンを当たりにしたままであるということである。それに加えてaポーンも当たりにし、黒が 24…Rc8 とすればナイトでe7でチェックして黒を壊滅させるのでその手を防いでいる。

 マスター選手のあかしとなるのは見かけは単純な局面でクイーン捨てでなくこのような手が指せることである。

24…g6

 黒キングは遅かれ早かれ空気が必要になる。それに収局になればg7を通って中原に向かい手助けすることを願っている。

25.Nxa7

 またポーンが落ちさらに2個がルークで当たりになっている。

25…Ra8

 このルークはc8に行けないので何とか戦闘に加わろうと躍起である。

26.Nc6

 ナイトは引き下がったが 26…Rc8 にはまだ 27.Ne7+ でルーク取りの処罰をする態勢にある。

26…Kg7

 黒はキングをナイトのチェックの及ばない地点に移し中央に近づけた。

27.a3

 急いでdポーンを取ることはない。白は黒ナイトがいずれかへ立ち退いてa8に隠れているルークによってaポーンが当たりになるのを用心した。それに後で黒ナイトがb4に跳んでくるのも阻止した。

 白は次のようなことが起こるのを避けている。27.Rxd5 Rc8 28.Rd6(詰まされるので白ナイトは動けない)28…Nb4 これで不幸な白ナイトが黒に取られる。

27…Rc8

 ようやくルークが念願のc列に回った。しかし黒はこの機会を生かせるだろうか。

28.g4

 白キングにも逃げ場所が必要である。黒は 28…Nb8 で駒得する手を狙っていた。白ナイトが2駒で当たりにされているが逃げるわけにいかない。

 キャッスリングしたキングの回りのポーンの形の乱れは収局では大したことはない。そのようなポーンの動きがキングの健康を脅かすのは序盤と中盤である。なぜならその場合は盤上のあらゆる駒でキングが襲われるかもしれないからである。

28…Nc7

 dポーンを守ったがルークの縦の利きを止めるという代償を払っている。白は 29.Ne7(黒のルークと2個のポーンが当たりになっている)29…Rc1+ 30.Kg2 Rb1 31.Rxb6 で2個の連結パスポーンで簡単な勝ちが保障される手を狙っていたので黒にはほとんど選択の余地がなかった。

29.Ne7

 白はまた黒ルークをc列から追い払う。ルーク当たりに加えて白はbポーンへの当たりとdポーンへは二重の当たりをかけている。

29…Rb8

 黒はできるだけ長くbポーンをもたせなければならない。このポーンを取られれば白のクイーン翼ポーンが自由に進んでクイーンに昇格する。

30.Rd7!

 圧力は緩めてはならない。30.Nxd5 Nxd5 31.Rxd5 からのルーク収局でも勝ちであるがピルズベリーはそれよりも本譜の手を好んだ。

30…Ne6

 ナイトは当たりから逃げなければならない。30…Rb7 で守るのは 31.Nxd5 で駒損になる。

31.Nxd5

 ついにこのポーンが落ち、(取ったポーンに加えて)白にはd列にパスポーンができ7段目にルークが残った。

31…Rc8

 黒はじり貧負けに陥るよりもさらにポーンを捨てて素通し列での反撃に活路を求めた。このルークが白ポーンの背後に回れれば2個ほどポーンを取れるかもしれない。

32.Nxb6

 白は 32.Nc3 で黒ルークを締め出して安全勝ちできるかもしれない。しかしbポーンを取ればパスポーンが3個になる。この誘いにはなかなか勝てない。

32…Rc2

 ルークが素通し列を支配した当然の帰結として7段目を占めることになった。これは白にとって面倒になることを意味している。しかしここでの例外は白のポーンがクイーン昇格のために盤上を駆け上がる態勢にあるという強力な解毒剤があるということである。

33.b4

 ポーンがルークの当たりを軽くかわした。

33…Ng5

 白のポーンは容易に前進を妨げられそうにない。しかしもしかしたら見捨てられた白キングが黒のナイトとルークの攻撃にもろいかもしれない。

34.a4!

 白は冷静にパスポーンを突き進めてクイーンを作ることに専念する。

 34.f4 で黒ナイトを追い払いたい気もする。しかしそう指すと信じられないだろうが黒に引き分けを許してしまう。34.f4 の後 34…Nf3+ 35.Kf1(35.Kh1 は 35…Rxh2# で詰んでしまう)35…Rd2! 36.Nc4 Nxh2+ 37.Kg1 Nf3+ 38.Kf1 Nh2+ 39.Ke1 Nf3+ でチェックの千日手で引き分けになる。

34…Ne4

 黒は別の侵入を試みた。

35.a5

 ピルズベリーはナイトをこづく衝動を抑えている。35.f3 なら 35…Ng5 で 36…Nxf3+ でチェックの千日手による引き分けの狙いが復活する。

35…Nxf2

 黒は詰み狙いの攻撃を作り出せるだろうか。

36.a6

 相手のこけおどしの無益さを最もよく明らかにするには注意を向けないことである。

 パスポーンは昇格まであと2手に迫りその行進を止めることはできない。

32…投了

 黒は次のような幸運を期待することはできないと判断した。36…Nh3+ 37.Kh1 Ng5 38.a7 Nf3 39.a8=Q Rxh2#