第2章 クイーンポーン布局(続き)
第20局
ルビーンシュタイン対サルベ戦ではスケールの大きな大局観指法が見られる。この試合でもまたこの布局の防御の要である …c5 突きを黒が省略した結末が示される。c列とc5の地点を支配した白が偉大な戦略の一端を見せつけることができた。白はc5の地点をビショップでせき止め(黒のcポーンをその場に完全に押しとどめた)その後はこの地点を制圧するためにビショップ、ナイト、ルークそしてクイーンという具合にせき止める駒を次々と交替させた。ルビーンシュタインはついには滅亡の運命にあった黒のcポーンを取り、最終行動となる自分のパスポーンの勝利への行進にとりかかった。
クイーン翼ギャンビット拒否
白 ルビーンシュタイン
黒 サルベ
ルージ、1908年
1.d4
100年前の選手はほとんど自動的に 1.e4 で指し始めた。そしてもしギャンビットが可能ならばそれも行なった。
今日では最小限のリスクで勝ちたい時はほとんどいつも 1.d4 である。クイーンポーン布局は安全で理にかなった局面に到達する。この布局は安心が保障され、さらなる動機として白が最初から少し優勢である。
白は初手で中原をポーンで占拠し圧力をかける。このポーンは守られていてそれと同時にクイーンとクイーン翼ビショップを解き放つ。
1…d5
この古典的な応手は中原での圧力を互角にする。さらには白が 2.e4 で好所のほとんどを独占するのも防いでいる。
2.c4
この手にはいくつかの目的がある。
ポーンを1個黒にくれてやって中原の放棄を誘うためである。
(もし黒がポーンを取らなければ)ポーンを交換して自分のルークのためにc列を空けるためである。
黒のdポーンとd5の地点に対する攻撃を実行に移すためである。
2…e6
黒はdポーンを別のポーンで守った。黒はもし白が 3.cxd5 と取ってくればポーンで取り返して中原にポーンを維持する用意をした。
3.Nc3
この手はcポーンとc列の開通を妨げないのでナイトの良い展開である。この布局における要所のd5に対する圧力を増しているので 3.Nf3 よりは少し厳しい手である。
3…c5
タラシュは手ばなしでこの手を支持していた。彼はたとえポーン交換によって中原に孤立ポーンが残されても駒を自由にかつ容易に展開するにはこれより良い手段はないと考えていた。
3…c5 の一つの利点は白のdポーンを攻撃することによってすぐに中原の所有を争うことである。別の利点はクイーン翼ビショップの生涯に長期に渡って邪魔をするd7でなくc6にナイトを置くことができることである。
4.cxd5!
これが主導権を維持する最良の手段である。この交換の目的は黒に孤立dポーンを負わせることである。
4…exd5
この取り返しが一番安全である。黒は 4…cxd4 5.Qxd4 Nc6 6.Qd1 exd5 7.Qxd5 Be6 でポーンを犠牲にすることもできるがこのギャンビットは無理筋とされている。
5.Nf3
これで白のナイトは中原の戦略的地点すべて(e4、e5、d4及びd5)を監視下においた。
5…Nf6
先に 5…Nc6 でd4に対する圧力を強めておく方が適切だった。そうすれば 6.dxc5 には 6…d4 とできて中原にくさびを打ち込むことができた。
6.g3!
これは数ある良い手の中でも恐らく最善手である。白は穏やかに 6.e3 又は 6.Bf4 と指すこともできる。どちらも白にとって安全で堅固な局面になる。あるいはすぐに 6.Bg5 で攻勢にでることもできる。アリョーヒンは1924年にこの手でクスマンをきれいに負かしている。
本譜の落ち着いた手でルビーンシュタインはキング翼ビショップをフィアンケットしてd5の地点に対する圧力を増すつもりである。
6…Nc6
黒をタラシュ防御に駆り立てた目的の一つが達成された。黒のクイーン翼ナイトは中原に影響力を発揮している。また(通常ならd7のナイトで動きを制限されている)クイーン翼ビショップも自由で束縛を受けていない。
7.Bg2
ビショップが対角斜筋に臨み黒のdポーンに特別の注意を注いでいる。当面はナイトによって利きをふさがれているがナイトはかろやかに飛びのくことができる。
7…cxd4
黒は自分の駒にもっと利きを与えるためにポーン交換を行なった(キング翼ビショップの筋が通ったことに注意されたい)。しかしこれには危険がないわけではない。素通しの筋は展開に優っている側に有利に働く。そしてこの場合それは白である。
落ち着いて 7…Be7 と駒を展開しておく方が無難だった。または黒が好戦的ならば強く 7…Bg4 とかかって、白のdポーンに対してその守り駒の一つを攻撃することによってさらに圧力をかけるのもあった。
8.Nxd4
この取り返しで黒には中原に孤立ポーンが残された。このようなポーンは両脇に守ってくれるポーンがないので自分の駒に敵の攻撃から守ってもらわなければならない。別の考慮点は敵の駒が孤立ポーンのすぐ目の前に、この場合ならd4の地点に、ポーンで追い立てられる恐れなくしっかりと居座ることができるということである。
これらは全て悲観的な材料である。しかしこれらの欠点と引き換えに孤立ポーン側には駒の活動の場面となる素通しの列と斜筋が報酬として与えられる。ポーン自体もみすぼらしい見かけとは裏腹に堅固な敵陣を粉砕する先陣となることがよくある。
理論家たちでさえ孤立ポーンの得失については意見が分かれている。ずっと昔にフィリドールは『チェス詳解-短期間でこの高尚な盤上競技に精通できる秘訣』という著書で「ポーンは同僚から分離している時ほとんど又は全然財産とならない」と述べている。擁護派としてはタラシュが「孤立dポーンを恐れる者はチェスを止めた方がよい」と言っている。
どちらにしても議論の余地がある。
黒の利点としては駒の働きが良いこと、駒がe4又はc4を(dポーンによって守られた)拠点とすることができるかもしれないこと、それから大駒が素通し列(e列とc列)を利用できることが挙げられる。
白の有利な点としてはd4に駒を永久に据えることができることと黒に自分のdポーンに対する狙いをかわすのに汲々とさせることができることである。黒のdポーンは簡単には取られない。というのはこのポーンを攻撃している駒の数と同じ数の駒で必ず守ることができるからである。しかしこのポーンにはずっと保護が必要なので白は盤の別の方面に攻撃を移すことができる。黒はそちらの方でも戦いに備えなければならないだけでなくポーンの方にも気を配っていなければならない。
8…Qb6
相手にナイトを交換するか 9.e3 でナイトを守ってクイーン翼ビショップの利き筋をふさぐようにしむけた。
9.Nxc6!
この手は白が喜んで黒の手に乗ったことを示唆している。白は黒の孤立ポーンの負担を軽減してやった見返りに他の弱点を固定化した。白はここからはd5の地点のことを忘れてd4とc5の地点を完全に制圧することに注意を向ける。これらの地点に駒を据えることによって白は黒がdポーン又はcポーンを突くのを妨げることができる。これらのポーンをせき止める効果はポーンの背後の全ての黒駒を封じ込めることである。
9…bxc6
9…Qxc6 と取るのはすぐにdポーンが落ちる。
10.O-O
白は攻撃に取り掛かる前にキングを安全な場所に送り込んだ。この間にキング翼ルークが中央の列で活動できるようになった。
10…Be7
あいにく黒は不運な運命のどちらのポーンも突くことができない。10…c5 なら 11.Nxd5 と取られてしまうし 10…d4 なら 11.Na4 でクイーンが当たりのポーンの一つを見捨てなければならなくなる。
受けの可能性は 10…Be6 にあった。この手はdポーンをさらに守りできるだけ早く …c5 と突いて捌こうというものである。黒は守勢のままではいけない。さもないとつぶされてしまう。
11.Na4!
白はクイーンを脅すことには興味がない。ナイトが跳ねたのは攻撃のためではなくc5の地点を支配して白の駒がそこにしっかり根を下ろすことができるようにするためである。
11…Qb5
クイーンは侵入者の撃退に役立つように近くに留まった。
12.Be3!
読者はこのビショップがf4に行くと予想したことだろう。そこならば遠くまで利いているしeポーンの動きも邪魔しない。あるいはg5だと考えたかもしれない。そこも黒を束縛しビショップの展開先としては効果的な地点になる。これらは自然な良い手であるが、この局面を貫いている戦略構想とは適合していない。いったん確固とした論理的な作戦が決まればそれに従った手を指さなければならない。それは自分の態勢の強化または相手の態勢の弱体化が行き当たりばったりの展開の結果としてでなく、組織的に行なわれるようにするためである。この時点においては展開のための展開であってはならない。
1地点の支配だけで陣形がつぶれることがあるのは不思議に思われるかもしれないが本当である。それがクイーン翼ギャンビットの魅力の一つである。すなわち(黒が中原の争奪や …c5 によるクイーン翼の捌きを無視したことから生じる)このような支配によって、白は敵の駒を一歩一歩後退させて狭い陣地に押し込め、この間にポーンを昇格枡まで連れて行ったり盤の反対側に目を向けて敵キングを包囲したりすることができるのである。
12…O-O
前述の解説を読んでいない黒は「良い」展開の手を指して満足している。
黒はcポーンがc6に永久に固定される前にそれを1枡進めることに全力を挙げるべきであった。今すぐにこのポーンを突くのは 12…c5 13.Bxd5 Nxd5 14.Qxd5 Qxa4 15.Qxa8 で交換損になるので時期尚早である。しかし 12…Be6(dポーンを守りcポーンを突く準備をする)に続いて 13…Nd7 から 14…Rc8 ならもっと激しく抵抗できた。これらは全てcポーンを1枡進めるのを助ける意図である。
13.Rc1
白は素通し列を確保しc5の地点にさらに圧力をかけそこに駒を据える用意を整えた。
13…Bg4
白のeポーンに黒の二つの駒が当たっていて白は受け方に困るかもしれない。白はどうするのだろうか。
14.Re1 ならこのルークの展開に支障をきたす。
14.Nc3 なら 14…Qxb2 でポーンを取られる。
14.Rc2 ならナイトを取られる。
14.f3 ならキングの回りのポーンがゆるみ自分のビショップが閉じ込められる。
黒の手を良しとするこれらの議論にもかかわらずタラシュは次のように言ってこのような論証を一蹴していた。「攻撃の始まりであり・・・」
14.f3
「・・・そして攻撃の終わりである。」
キング翼ビショップが閉じ込められているのは一時的なことに過ぎない。キング翼ポーンの弱体化も黒がそれにつけ込めないならば何の影響もない。
14…Be6
ビショップが正しい地点を見つけたが遅かった。既に手遅れである。
15.Bc5!
戦略地点のd4とc5を制圧した白は黒ポーンを動けなくし黒駒の動きを制限する地点に駒を据えた。
15…Rfe8
黒はビショップを守るか交換に応じるしかない。交換するのは 15…Bxc5 16.Rxc5 で別の駒がクイーン当たりの先手でせき止め役の代わりをするので気が進まない。
16.Rf2!
これは妙手である。ルークはc2に行ってc列の活用を支援する用意をした。それにf1の地点を空けたことによりビショップがもっと役に立つ斜筋に行けるようになった。
16…Nd7
黒は三つ目の駒でビショップを当たりにし逃げてくれることを期待した。
17.Bxe7
ビショップが引き下がると黒が 17…c5 と突いてきて押さえ込みが破られるので引き下がらない。代わりに多くの選手が手拍子で指すような 17.b4 でビショップを守る手も指さない。この手は 17…Bxc5 と取られて 18.Rxc5 は交換損になるし 18.Nxc5 は 18…Qxb4 とポーンを取られるので結局 18.bxc5 とポーンで取るしかない。しかしc5のポーンは動けず役に立たないだけでなく自分自身でc列を白駒に対して閉ざしてしまう。これは敵陣の弱点はポーンでなく駒で占拠するという戦略全体を否定してしまう。駒は列を空けて攻撃に活用できるように自由に動き回れる。駒はもし必要ならば別の駒でせき止めを行なえるように移動することができる。
17…Rxe7
これは取る一手である。
18.Qd4!
なんと素晴らしい。クイーンの中央化は非常に効果的である。クイーンは盤のあらゆる場所に影響を及ぼしているだけでなく黒が 18…c5 突きで捌くのを阻止しナイトをc5の地点に据える準備もしている。クイーンが新しい地点からもナイトを守りbポーンも見張っていることに注意されたい。ナイトは自由に動けクイーンに見捨てられたeポーンは今度はルークが守っている。
18…Ree8
このルークは白の攻撃からc列を守るのを助けるために下がった。a列のルークが動くのはポーンを取られる。
19.Bf1
これはビショップを働かせる巧妙な手段である。代わりに 19.f4 と突くのは良いどころではない。なぜなら黒の駒に捌く余地を与え、黒のビショップとナイトがe4の地点に来れるようになる。
19…Rec8
20…c5 と突く可能性を復活させた。黒はこのときになってこのポーンが突けなければ座して死を待つことになるかもしれないと気づいたに違いない。
20.e3!
このちょっとした手は多くのことを成し遂げている。敵クイーンに当たりをかけて(退却に1手かけさせ)1、2手を得し、自分の白枡ビショップの斜筋を通し、2段目を空けてキング翼ルークがc2に転進してc列での圧力を増すことができるようにした。
20…Qb7
ボーモントとフレッチャーがシェークスピアになぞらえて言ったように勇気の大部分は分別である。
捨て身の 20…c5 突きは 21.Rxc5 で咎められる。クイーンが当たりになったままなのでこのルークを取ることができない。
21.Nc5!
せき止めの始まりである。ナイトがc5に腰をすえ黒陣に対してバリケードを築いた。
21…Nxc5
黒はこのナイトを取り除いた。それは働いているせき止め駒を除去するためだけでなく駒の交換は狭小な陣形を楽にするという理論に基づいているからである。
22.Rxc5
前任者ほど敏捷ではないが新しいせき止め駒はポーンによるいじめやビショップによる当たりを受けないという特権を享受している。黒のビショップはこのルークのいる枡の色と反対の色の枡でしか働けない。
22…Rc7
黒には反撃の手段がない。黒にできることはじっと事の成り行きを見守ることだけである。
しかし白はどのように相手の動けないことにつけ込むのだろうか。どのように相手の消極的な抵抗に打ち勝つのだろうか。
23.Rfc2
白はまずc列にルークを重ねた。これはルークの威力を倍以上にさせる。
今のところは無駄骨を折っている感じである。しかし手段はきっとある。信じることが大切である。
23…Qb6
黒は相手が狙いを見せて態度を明らかにするまで当たり障りのない手を指すつもりである。
24.b4!
これがその手である。ルークが敵を押さえつけている間にポーンが敵陣に殴りこみをかける。
白の直接の狙いは 25.b5 で黒の動けないcポーンに三つ目の当たりをかけることである。
24…a6
黒はポーンの前進を指をくわえて見ているわけにはいかない。
25.Ra5!
攻撃の矛先を変えて黒がすべての弱点の守りに忙殺されるようにした。ルークが移動してもcポーンに対する圧力は失われずこのポーンは今の所に居続けなければならない。
25…Rb8
当たりにされたクイーンを守った。他の手段は次のように見通しが暗い。
25…Qxd4 は 26.exd4 Bc8(aポーンを守るため)27.Rxd5 で白のポーン得になる。
25…Qb7 は 26.Qc5 の後 27.a4 から 28.b5 で決定的な敵陣突破が行なわれる。
26.a3
攻撃を続行する前に大切なbポーン(このポーンは黒を屈服させる運命にある)を守った。
26…Ra7
二つの駒で当たりにされているaポーンを守ったが別のポーンを取られる。しかし黒には全ての弱点を守る術はなかった。もし 26…Bc8 と守れば 27.Qxb6 Rxb6 28.Rxd5 とcポーンの釘付けを利用してポーンを取られる。
27.Rxc6!
このささやかな略奪は白の大局観戦略の真価の最初の具体的な証拠である。黒の困難の原因であるcポーンが最初に落ちるのは当然の報いでしかない。
27…Qxc6
b7に引く手や交換する手よりもこの手の方が良い。27…Qb7 は 28.Raxa6 で白がポーン得を重ね2個のポーンが連結パスポーンになり昇格枡へ駆け出す準備をする。27…Qxd4 は 28.exd4 で白が3個の駒で当たりにしているaポーンも手中に収めることになる。
28.Qxa7
この取り返しの後も黒はまだ気が抜けない。ルークだけでなくaポーンも当たりのままである。
28…Ra8
これでaポーンを助けた。それでも 29.Rxa6 と取ってくれば 29…Rxa7 30.Rxc6 Rxa3 で黒もポーンが取れる。
29.Qc5
今度はクイーンで再びc列と急所の地点を押さえた。
29…Qb7
黒はクイーン交換を避けた。もし交換すれば次のようになる。29…Qxc5 30.Rxc5 Kf8 31.Ra5 でaポーンを助けるにはdポーンを見捨てるしかない。
30.Kf2
キング翼を固めただけでなくクイーンが交換された場合の収局に備えてキングを中央に近づけた。
30…h5
これは一種の示威行動だが白は動じもしなければクイーン翼で決着をつけるという白の方針も揺らぎもしない。
31.Be2
白は局面が捌けてきた時に受けるかもしれないうるさいチェックからキングをかくまった。
31…g6
黒駒は2個の孤立ポーンの守りに縛り付けられている。それでポーンを突いて手待ちをした。
32.Qd6
白は厳しく三つ目の駒で敵のaポーンを当たりにした。黒陣にクイーンがさらに侵入したことによりc5の地点が空いてルークが7段目の侵入のための経由地点として利用できるようになった。
32…Qc8
黒は全部のポーンを守ることはできない(32…Bc8 なら 33.Qxd5)。そこでaポーンを見捨てて素通しのc列を通って白キングに肉薄しようとした。
33.Rc5!
鉄の公爵をすり抜けることはできない。はぐれポーンをかき集めるよりもc列の支配を維持し黒の駒を寄せ付けないようにすることの方が重要である。
33…Qb7
クイーンは敵ルークに当たりをかけられて飛び先に迷うほどの地点もなかった。
34.h4
この手はキング翼の黒ポーンを動けなくしその方面の奇襲攻撃への備えにもなっている。
34…a5
黒はクイーンのためにa列を力ずくでこじ開けようとした。
他に何かあるだろうか。34…Kg7 なら 35.Rc7 Qb8 36.Bxa6 Kg8(36…Rxa6 なら 37.Rxf7+ でクイーンが取られる)37.Bb7! Ra7 38.Rc8+ Bxc8 39.Qxb8 で白の楽勝である。
35.Rc7
この手は敵クイーンの逃げ場所を最小限の1枡に減少させる。
これで白は戦略上の要所、すなわちc列、急所のc5の地点、d列、6段目それに7段目を全て制圧した。
35…Qb8
ここが唯一の逃げ場所である。このクイーンは次第に追い詰められてきた。
36.b5
これが新たな難儀の元である。白がパスポーンを突き進めてきた。
36…a4
黒はルークをもっと動けるようにしなければならない。
37.b6
この手は 38.b7 Ra7 39.Rc8+ Bxc8 30.Qxb8 で手当たりしだいに取ってしまう狙いである。
37…Ra5
ルークはここに来ても何もすることがないが適当な受けもない。
38.b7!
39.Rc8+ でクイーンを取る狙いをあらためて示した。
38…投了
もうこれ以上指す手ができない。
38…Kg7 なら 39.Rxf7+ でたちまちクイーンを素抜かれる。
38…Qe8 なら 39.Qb6 であまり見かけない形でルークが取られる。
38…Qa7 なら 39.Qd8+ Kg7 40.b8=Q で、黒が詰みを逃れるためにはクイーンを捨てるしかない。
白の指し回しは大局的優位の組織的な活用のみごとな例である。c5の地点をビショップ、ナイト、ルークそれからクイーンというようにかわるがわる白駒が占拠して跳躍台として利用したありさまは至高の芸術作品の技巧を垣間見た思いである。