第3章 チェスのマスターが自分の読みを解説する(続き)

第26局

 ベルンシュテイン対ミーゼス戦には「黒鍵のエチュード」という表題が付けられるかもしれない。ベルンシュテインは相手の黒枡の弱点を締め上げそれらの空所に自分の駒を埋め込んだ。白キングの大遠征の後黒ポーンが落ち始めベルンシュテインのパスポーンの進路が切り開かれた。

シチリア防御
白 ベルンシュテイン
黒 ミーゼス
コーブルク、1904年

1.e4

 今日ではこの手に踏み込むには勇気がいる。古典的な応手の 1…e5 で応じられることはめったにない。白が対面するのはフランス防御、シチリア防御、カロカン防御、アリョーヒン防御、あるいは黒番の選手が論文を執筆した他の防御法である。

 それでも客観的に見れば 1.e4 は最強の布局の手の一つである。この手は中原にポーンを据え二つの駒が戦闘に加われるようにしている。一手に対してこれ以上のことを要求することはほとんどできない。

1…c5

 黒は古き良き時代の人間がしたように角つき合わせて戦うようなことはしない。相手に得意のギャンビットや速攻を指させる代わりに自分が武器を指定することを主張している。

 理論的にはこの黒の応手は 1…e5 よりも劣っている。つまり一つの駒しか解放されずcポーン自身も白のeポーンより中原に対する影響力が弱い。しかし実戦的にはシチリア防御は完全に理にかなっている。戦いの試合になり、黒の勝つ可能性も大きい。特に勝ちを望むあまりキング翼攻撃にはやる相手に対してそうである。

 黒はクイーン翼での反撃を狙う。そのためにはc列の支配が必須である。黒は白の中原とキング翼での優位を相殺するように努めなければならない。

2.Nc3

 これは通常の展開の手である。駒が1個戦いに加わり中原に影響を及ぼしている。しかし何とおとなしい手であることか。

 もっと的を射た手は積極性のある 2.Nf3 である。これはキング翼の駒を展開し(早期のキャッスリングを容易にする)3.d4 突きを予定し中原での行動とクイーン翼の駒の解放を準備する。

2…e6

 この黒の手は穏やかだが効果的である。キング翼ビショップとクイーンの斜筋が通り中原を 3…d5 で占める用意をしている。

3.Nf3

 これはすぐれた手である。ナイトをすぐに最適の地点に置き、中原に対する圧力を増し、キング翼キャッスリングを可能にしている。

 代わりに 3.d4 と突くのは 3…cxd4 4.Qxd4 Nc6 となりクイーンが当たりになっているので黒が手得する。

3…Nc6

 ここで黒はチャンスを逃がした。ここは 3…d5 と突く好機で、自由で指し良い局面になるところだった。ほとんど全てのキング翼布局で黒はこの …d5 突きを指すことができれば互角の局面にすることができる。

4.d4!

 これはシチリア防御に特有の突っかけである。この手段によって白駒の活動性が高まる。クイーン翼ビショップのために斜筋が開きクイーンの動く空間も広がる。

4…cxd4

 黒は側面ポーンと引き換えに二つの中原ポーンの一つを交換で消し去った。それと共にクイーンとクイーン翼ルークが使えるように非常に重要なc列を空き列にした。

5.Nxd4

 この取り返しによりナイトが中央に陣取り白駒の攻撃の利きが増す。

5…Nf6

 回り道をして「シチリア4ナイト試合」という局面になった。これは表向きは穏やかだが実際は複雑である。

 ここから白はどう指したらよいだろうか。その選択は何よりも棋風、気分および気性の問題である。そしてこれこそがチェスを非常に魅力的にしているものである。

 白は 6.Be3 または 6.Be2 で組織的にそして単刀直入な展開に徹することができる。白は 6.Ndb5 で大胆かつ手筋志向になることもできるし、6.a3 で強力な釘付けを防いで堅実にいくこともできる。白は 6.g3 または 6.Nxc6 で大局的な優位の確保に努めてじっくりいくこともできる。

 白が何をしようと指し手は何かしら個性を反映する。要所での岐路では個人の考え方、気分および直感が映し出される。それは小さな軍隊の活動を指揮するやり方に見られるとおりである。

6.Nxc6

 白はナイト交換から生じる局面での少しの優勢に満足である。他の手のいくつかをちょっと見てみよう。

 a)6.Be3 は 6…Bb4(ナイトを釘付けにし 7…Nxe4 を狙っている)7.Bd3 d5! となって黒が障害のほとんどを克服してしまう。

 b)落ち着いた 6.Be2(6.Bd3 はナイトがただ取りになるのであり得ない)は同じく 6…Bb4 と応じられて黒の反撃が有望である。

 c)釘付けを 6.a3 で防ぐのは気が進まない。6…d5 と応じられると白は主導権を維持するために頑張らなければならない。手の損得は布局では非常に大切なのでポーン突きに費やすわけにはいかない。

 d)諸刃の剣(もろはのつるぎ)の 6.Ndb5 は全ての人の好みというわけにはいかない。6…Bb4 7.Bf4 Nxe4 8.Nc7+ Kf8 9.Qf3 d5 10.O-O-O Bxc3 11.bxc3 Rb8 で大乱戦に突入する。

 本譜の手の一つの利点は黒がポーンで取り返す際にシチリア防御で主要な攻撃路となるc列を閉じてしまうことである。

6…bxc6

 この手は恐らく 6…dxc6 より優っている。一つには中央に向かって取る方が通常は戦略的に良いということがある。この場合は一団のポーンを中央に保持しクイーン翼ルークの便宜のためにb列が空けられる。

 6…dxc6 と取ると 7.Qxd8+ Kxd8 8.Bg5 Be7 9.O-O-O+ で黒が対応に追われる。

7.e5

 この手はナイトを好所から立ち退かせるだけでなく白のd6の地点の支配を強化している。

7…Nd5

 この中央に向かわせる手に考慮はほとんど必要としない。他にナイトの行ける唯一の地点は本拠地のg8である。

8.Ne4

 ナイトを交換するのは白の享受してきた優位を失ってしまう。本譜の手はd6に対する圧力を強めている。

8…f5

 敷地内でぶらぶらさせない。ナイトは立ち去るか意図を明らかにしなければならない。

 黒は 8…Qc7 という受けもあった。9.Nd6+ Bxd6 10.exd6 Qxd6 11.c4 と来ても 11…Qe5+ で釘付けをかわすことができる。

9.exf6e.p.

 白が急所のd6の地点を所有するという目標を達成するためにはナイトを今の地点に踏みとどまらせなければならない。

9…Nxf6

 黒はポーンで取り返さない。それは 10.Qh5+ とされてキングが動かなければならずキャッスリングの権利を奪われる。

10.Nd6+

 黒に交換を余儀なくさせて「不良」ビショップを残させた。不良ビショップは自分と同じ色の枡にポーンがいるために働きが悪い。自分の通り道にポーンが一杯いるとビショップはほとんど何もできない。

10…Bxd6

 他には 10…Ke7 しかないがこれはとても指す気がしない。

11.Qxd6

 この取り返しで白は敵陣を締め付けた。黒のdポーンをせき止めて …d5 で捌くのを封じただけでなく、黒キングがキャッスリングで安全地帯に退避できなくさせている。さらに白は黒枡に大きな圧力をかけている。この圧力は黒枡を動く黒のキング翼ビショップが盤上からいなくなったことによって際立っている。

11…Ne4

 黒は白クイーンを追い払わなければならない。さもないと空気不足で窒息する。

 11…Qe7 では助けにならない。それは 12.Bf4 Qxd6 13.Bxd6 Ne4 14.Ba3! となって白がなおも厳しく圧迫している。

12.Qd4

 このクイーンは退却しながらもナイトとgポーンを当たりにして2方向に攻撃を加えている。

12…Nf6

 両方の狙いを防ぐにはこの手しかない。

13.Qd6

 白はこの圧倒的な態勢を手放したくないので同じ手を繰り返した。それでも望むならばいつでも手を繰り返して引き分けにできることをほのめかしている。

13…Ne4

 黒は白クイーンをd6に置いたままにしておけない。それを追い払うのが遅れれば致命的な事態を招くかもしれない。

 アリョーヒンは黒の苦境が克服できないものでないことを明らかにした。彼は次のような手順を示した。13…Qb6(14…Qxf2+ 15.Kxf2 Ne4+ の狙い)14.Bd3 c5 15.Bf4 Bb7 16.O-O Rc8

14.Qb4!

 この手は非常に強硬な手である。d6の地点にいつまでも居続けることができないならばここはクイーンの次善の地点である。b4の地点(変な場所だが)でクイーンはナイトを攻撃し、斜筋を支配して黒のキャッスリングをできなくし、三つ目の方向では黒のクイーン翼ルークが素通し列を占めるのを防いでいる。

14…d5

 ナイトを守り 15…Qd6 で白のクイーンに挑戦する手はずを整えた。黒のポーン中原は苦労の代償となっている。

15.Bd3

 これは理想的な手である。なぜなら駒が狙い-16.Bxe4 dxe4 17.Qxe4 でポーン得-を持って展開したからである。

15…Qd6

 交換を申し込んだ。これで盤上から白の攻撃的なクイーンが消えるか、圧倒的な位置からクイーンが退却することになる。

16.Qxd6

 白は喜んで単純化を図った。白は強力な双ビショップと黒枡の永続的な支配でまだ優勢を保っている。

16…Nxd6

 黒もこの取引には満足できるところがある。両方のルークが活動できる素通し列があり、中央部の一群のポーンはビショップの利きを制限することが期待できる。

17.f4!

 「顕微鏡のような目は支配者の印である」と著名なマルコが言っている。

 これでe5の地点が白の支配化に入った。一方黒のeポーンは前進を制止させられている。ポーンが動けないことの一つの影響は黒のビショップの動きをひどく制限していることである。

17…a5

 黒は何とかしてビショップを戦いに参加させなければならない。黒はこの手でビショップをa6に展開させて白のよく働いているビショップと交換する予定である。

18.Be3!

 素晴らしい。このビショップは黒のcポーンを抑え、さらにd4とc5の二つの黒枡を白の支配化に置いた。

18…Ba6

 黒は脅威となっている白のビショップの一つを盤上から消し去ることを期待した。

19.Kd2!

 キングは強い駒なので終盤では攻撃のために使うべきである。盤上から駒が少なくなるにつれてキングが詰みの攻撃にさらされる危険性も減っていき戦うための駒としての能力が増大する。終盤ではキングは敵のポーンに分け入って損害を与える手段として劣っていない。

 これがこの局面でキングが中央に近寄った理由である。キングはキャッスリングしてそこで働くよりも中央の方がずっと役にたつ。

19…Nc4+

 黒の作戦がはっきりしてきた。黒はナイトをビショップと交換したがっている。これにより異なった色の枡を支配するビショップが黒に残ることになる。このような状況は一般には引き分けに終わる。

 他に考えられる手は 19…Nb7 だった。目的は 20…c5 と指して中央のポーン横隊を突き進めていくためである。

20.Bxc4

 黒は 21…Nxe3 だけでなく 21…Nxb2 も狙っていたのでこの取りはほぼ必然である。

20…Bxc4

 ここで局面を観察してみよう。

 白のビショップは黒のビショップよりもはるかに自由に動ける。黒のビショップは自分の動く枡の色と同じ白枡のポーンが多数あるために動きが邪魔されている。

 白のキングは中原と急所のd4とe5の枡に近いので収局では黒のキングよりもはるかに好位置にいる。

 黒の命の綱である中原は固まったままである。そこの3個のポーンは固定されて動くことができない。

21.a4!

 せき止め!黒のaポーンはその地点に完全に止められた。今や固定した目標となりいつでも Bb6 で攻撃される危険にさらされている。取られないようにするためには(このポーンがなくなると白のaポーンがパスポーンになるので)黒はルークで絶えず見張っていなければならない。この1個のポーンを守る必要から黒はクイーン翼ルークの働きを奪われる。

21…Kd7

 黒は収局に備えてキングを中央に近づけた。

 これでルークが結合しキング自身もd6の地点を目指している。そこからキングはeポーン又はcポーン突きの助けとなることを希望している。

22.b3

 ビショップを攻撃して盤の端に下がらせる。これでこのビショップの利きが減ることに注意して欲しい。というのはビショップの動く斜筋の色である白枡に白と黒のポーンが配置されているからである。

22…Ba6

 不幸なビショップの唯一の逃げ場所である。

23.Bb6!

 そして今度はポーンに対する攻撃である。

23…Bc8

 さらに退却することによってのみ受けることができる。

24.Ke3

 d4、e5への徒歩を続け、いずれ分かるように北を目指す。

 もう少し無慈悲なのは 24.Bc5 で、24…Rf8 さえも防ぐ手だった。

24…Ra6

 24…Kd6 でポーンを突けるようにするのは良くなく、白は 25.Kd4 でそのささやかな考えを芽のうちに摘み取ってしまう。

 黒の最善の手は 24…Rf8 で素通し列にルークを回して反撃を図ることだった。本譜の黒の手はビショップに当てて好所からどかす目的を果たすことができるがもっと良い地点に行かせただけに終わった。

25.Bc5!

 これで盤上のすべての重要な地点を支配した。このビショップはキング翼ルークがf8に来るのを止め、クイーン翼ルークがb6に回るのを止め、黒キングがd6に来るのを止め、dポーンが進むのを止め、cポーンを全く動けなくしている。8枡を支配しているこのビショップを1枡に限られている黒ビショップと比較してみるとよい。白の攻撃の機会が広がり以降の黒の防御が困難をきたすのはこの潜在能力の大きな違いによるものである。白が陣地を獲得または支配するにつれて黒陣はますます窮屈になっていく。

25…Kc7

 キングがそばへよけてビショップがd7に行けるようにした。

26.Kd4!

 輪縄を絞った。このキングはe列を利用するルークのためにも道を空けている。

26…Bd7

 黒はビショップをキング翼、例えばg6へ捌こうとしている。

 黒のキング翼ルークは活動範囲が広いように見える。しかしどの地点が役に立つだろうか。もしb8に行けば(良い列に見える)どこへ侵入できるだろうか。その列で役に立つ地点はどこにもない。

27.Rhe1

 すぐにe5をキングで占めるよりもこの手の方がはるかに強い。白はこの重要な枡を利用してルークをg列に転回させるつもりである。ルークがそこへ行った後はキングがe5の地点を占め黒枡の締め付けを強化する。

27…h5

 黒は予想されるルークの攻撃に対してポーンによるバリケードを築こうとしている。

28.Re5

 g5への旅行への2番目の立ち寄り地である。

28…g6

 黒はハッチを閉めて厳しい冬に備えた。

29.Rg5

 gポーンを当たりにすると同時にキングに場所を空けた。

29…Rg8

 gポーンを守らなければならないが 29…Rh6 は全然動けなくなるのでもちろん本譜の手の方が柔軟性がある。

30.Ke5

 キングが幸便に黒枡を伝ってさらに侵入した。狙いは 31.Kf6 Be8 32.Re1(この手は 32.Kxe6 よりもはるかに強い)から 33.Rxe6 である。

30…Be8

 黒はすべてのポーンを助けることは望めないのでeポーンを見捨てた。もし白がこのポーンをすぐに取ってくれば 31…Bd7+ 32.Kf6 Bf5 で抵抗するわずかな希望がある。

 黒の不運なビショップは同じ色の枡にしっかりと固定されている5個のポーンによって悲しくも閉じ込められている。

31.Re1

 決定的な行動に出る前に白はさらに圧力をかけた。一撃を見舞う前にマスターの選手が全ての駒を働かせるやり方に注意して欲しい。

31…Ra8

 戦いに復帰する前にこのルークは元の位置に戻らなければならない。

 31…Kd7 では十分な受けにならなかった。32.Kf6 と応じられてルークの利きがeポーンに達する。

32.Kf6!

 白は包囲網を完成した。e6、d5及びc6にいる黒ポーンの配置の影響に注目して欲しい。黒自身の駒が束縛を受けているのに対し白駒は弱体化したc5、d4、e5及びf6の黒枡を利用して敵陣の急所へ進入を果たすことができる。それからこれらの黒枡は「空所」となっていて、駒が敵のポーンによってどかされないことにも注意して欲しい。

 白は荒っぽい攻撃や込み入った手筋に訴えて自分の目的を達成するようなことはしない。代わりに圧倒的な陣形上の優位に潜んでいる動的な力に信頼を置いている。

32…Bd7

 黒は前の手の別の理由を明らかにした。白が 33.Rxg6 と取ってくれば 33…Rxg6+ 34.Kxg6 Rg8+ 35.Kxh5 Rxg2 で急に敵に襲いかかる。

33.g3

 白はこの可能性に備えてキング翼に連鎖ポーンをこしらえ黒ルークの一つのいかなる突入の機会も減らした。

33…Rae8

 黒は陣容を強化するために何もすることができない。だからこの手は手待ちみたいなものである。

34.Ree5

 白は 34.Rxg6 と取ることができ勝つのにほとんど何の支障もなかったが、慎重には慎重を期した。まず先にeポーンをせき止め抵抗の気配さえも鎮圧した。

34…Rh8

 「生きているうちに・・・」

35.Rxg6

 これが最初の具体的な利得である。以降は勝ち試合を勝つ技法が興味深く展開される。

35…Rh7

 黒は孤立したhポーンに対する狙いを恐れてルークを重ねる用意をしてそれを救おうとした。

36.Rg7

 白は地盤を拡大し続けている。ここで7段目に侵入した。

36…Reh8

 黒は必死に持ちこたえている。

37.Rxh7

 この手が最も簡明で勝ちを決める科学的な手法である。一方が戦力的に優勢の収局では所定の戦略はポーンでなく駒を交換しポーンの局面に持ち込むことである。盤上にポーンしかない収局は勝つのが最も容易である。

37…Rxh7

 この取り返しで当面は黒が1ポーン損のままである。

38.Kg6!

 盤上から駒が減っていくたびにキングの力は増してくる。ここでキングはルークを脅かしhポーンの攻撃にも助けになっている。

38…Rh8

 おかしなことにこのルークは盤上で一箇所しか動くところがない。

 ここで白はhポーンを取って決着をつけるのだろうか。

39.Kg7!

 違う、違う、断じて違う。39.Rxh5 なら 39…Be8+ で黒がルークを丸得して勝負に勝ってしまう。単純な終盤で間違うのはなんとたやすいことだろうか。

 白の実際の手はまずルークを敷地から追い立てることである。

39…Rd8

 このルークはh列を離れてhポーンを見捨てなければならない。

40.Rxh5

 これで安心してポーンが取れる。

40…Be8

 この手はビショップをキング翼に持ってきて白のクイーン翼ポーンの背後に回ることを期待した。

41.Rh7

 ルークが収局における本来の位置である7段目に急いで陣取った。

41…Rd7+

 さもないと白が 42.Kf6+ Bd7 43.g4 としてきてこのポーンが止められなくなる。

42.Kh6

 キングはルークのそばにいなければならない。

42…Rxh7+

 ルークの交換を避けることはできないので黒は先にルークを取って白キングをh5の地点から引き離した。もしビショップがそこへ行ければまだ面倒を引き起こせるかもしれない。

43.Kxh7

 白もこの交換には賛成である。白のキング翼ポーンは動けるが黒のポーンは動けないか動くわけにいかない。

43…Bh5

 これでビショップが白のクイーン翼ポーンの背後に回る。

44.h4

 クイーン翼ポーンを助けることはできない。そこで白は自分のキング翼ポーンを動かし始めた。

44…Bd1

 長い間活動しなかった後でこのビショップは白枡のすべてのポーンの命を脅かすだけでなくキング翼のすべてのポーンを(当分の間)制止している。

45.c3!

 自分自身を助けるためにこのポーンは黒枡に逃げた。

45…Bxb3

 黒はポーンを取った。それは真の狙いがないので何はともあれ白の気をそらすためである。

46.g4

 46…Bxa4 には対策が用意してあって 47.f5 Kd7(47…Bc2 なら 48.Kg6 でhポーンが突き進むし 47…e5 なら 48.f6 Kd7 49.f7 で白が勝つ)48.f6 Ke8 49.Kg7 でキングがポーンに付き添う。

46…Kd7

 ポーンを抑えるためにキングが急行した。

47.g5

 ニムゾビッチが言うところの「パスポーンの突き進む欲望」である。

47…e5

 どうにでもしてくれという手である。しかし有望な受けはない。47…Ke8 なら 48.g6 Bc2 49.h5 Bf5 50.Kg7 で白が勝つ。

48.f5

 最も簡明な手である。白の連結3パスポーンで勝ちが確実である。

48…Bxa4

 48…Bc2 にはfポーンを守りhポーンの進路を空ける 49.Kg6 が決め手である。

49.f6

 投了の頃合であることを示唆した。49…Ke8 でも 50.Kg7 がポーンの面倒を見るので止められない。

49…投了

 黒枡の弱点につけ込む技法の見事な実例だった。